「インスリン感受性」という言葉をご存じですか。

従来、2型糖尿病は、通常よりもインスリンが不足しているため高血糖になる糖尿病といわれていましたが、最近はこのインスリンが十分あるのに利用されず血糖値が高くなる糖尿病が増えてきました。後者のような場合、「インスリン感受性が悪い(インスリン抵抗性がある)」と言います。

 

1.インスリンが出ているだけじゃダメ

 

①受容体が協力者

インスリンは、血液中のブドウ糖を、エネルギー源として筋肉や脂肪組織の細胞の中に送り込む働きをします。ただし、実をいうとインスリンの力だけでは不十分で、インスリンを利用する細胞の側にも協力者を必要とします。細胞の外側の壁にある受容体(レセプター)というのがその協力者です。

 

②高血糖になるのは?

インスリンは受容体と力を合わせてこそ、その能力を発揮するのです。受容体の数が少なかったり、受容体とインスリンがうまく結合できない場合、受容体に問題がなくても細胞の中の仕組みが壊れている場合は、いくらインスリンが十分に分泌されていてもその作用が正常に行われないため高血糖になるわけです。

 

2.肥満に多いインスリン感受性の低下

 

肥満の場合、体の各細胞はインスリンの働きに鈍感になってブドウ糖を利用せず、益々体に脂肪を貯めこみ悪循環に陥ります。インスリン感受性が悪くなると、血圧も上がり、糖尿病にとどまらず、様々な生活習慣病に悪影響が出ます。

 

①欧米食文化のしわよせ

日本人は、もともとインスリンの分泌が欧米人の半分程度と少なく、それでも、脂肪の少ない和食中心の食生活を送っていたため、インスリン抵抗性を引きおこす肥満にはなりにくかったのです。しかし、戦後50年を経て、欧米型の高脂肪食や運動不足などにより肥満の人が増え、インスリン抵抗性を引き金にして糖尿病を発症する人が増えています。

 

②皮下脂肪型肥満と内臓脂肪型肥満とどっちが危険?

 

肥満は体脂肪が過剰に蓄積した状態のことですが、脂肪のつき方により、皮下脂肪型肥満(下体肥満、洋ナシ型肥満)と内臓脂肪型肥満(上体肥満、リンゴ型肥満)に分けられます。糖尿病や高血圧、高脂血症などの生活習慣病とより深く関係しているのは内臓脂肪型肥満です。このタイプの肥満は、外見からはそれほど太っているように見えない“隠れ肥満”の場合もあり、注意が必要です。

 

3.インスリン感受性が悪いとどうなる?

 

①インスリン感受性とインスリン分泌量の関係

 

インスリンの感受性が悪いと血糖を下げるため、それをインスリンの量でカバーしようとし、結果、インスリン過剰分泌によって膵臓が疲弊してしまい結局インスリンの分泌量も減るのです。

 

②高インスリン血症から動脈硬化へ

 

インスリンは、ブドウ糖をエネルギーに変え、血糖値を下げる唯一のホルモンです。内臓脂肪の蓄積でインスリン感受性が悪くなると、血糖値は上昇し糖尿病を発症します。同時に、インスリンが多量に分泌され、インスリン感受性が悪いためそのインスリンが使われずにいると「高インスリン血症」を招きます。インスリンの量が多すぎると、腎臓でナトリウム(塩分)が排泄されにくくなる、肝臓で脂肪が過剰に作られる、血管の壁を構成している細胞が増殖し血管内径が狭くなる、などの現象が起きてきます。これらはそれぞれ、インスリン感受性をさらに悪くし、糖尿病を進行させ、高血圧・高脂血症・おしまいには動脈硬化へとつながっていくのです。

 

4.インスリン感受性の低下を防ぐには?

 

治療・予防の基本はなんといっても、食事・運動療法です。

 

①食事療法~摂取量をその人に合ったエネルギ-の範囲にし、しかも栄養のバランスが偏らないようにすることでインスリンを節約し、肥満を解消します。

 

②運動療法~運動を行うことで、インスリンの効きをよくします。運動を行うと、身体の各部分でのインスリン感受性がよくなります。「運動療法はエネルギーを消費する事」と考えがちですが、実は第一の目的は、運動することでインスリンの感受性を高めることにあります。もちろん血中のブドウ糖が消費されるため、血糖値が下がるというメリットもあります。

 

食事・運動療法はまさに糖尿病治療の要です。この他にもストレスをためこまない、タバコやアルコールの制限など、生活習慣の改善も大切です。