さなぎは天然の栄養補助食品

 

製糸工場では繭(まゆ)から糸を紡ぎ取ってしまい、繭の中に入っていたさなぎは捨てられています。

さなぎは繭をつくるのに大量の絹糸を吐き出し、多大なエネルギーを消耗しているので蚕ほどの薬効は期待できませんし、シルク成分もほとんど含まれませんが、タンパク質や脂肪は豊富です。さなぎのタンパク質は牛肉にも劣らず、魚粉より優れ、ビタミンB2が多量に含まれています。ですからさなぎ三個の栄養は鶏卵一個分と言われてきました。

この飽食の時代にわざわざさなぎを探して食べる必要はありませんが、栄養補助食品としての価値はあるということだけは覚えておいて欲しいものです。実際、現在も長野県ではさなぎの佃煮が売られています。

製糸工場から出たさなぎのほとんどが家畜の飼料や養魚場の魚のエサとして利用されていますし、脂肪分は精製して食用油や石鹸の原料になります。

薬用としては虫さされや、獣に噛まれたときにさなぎの液汁を患部に塗るという民間療法があります。

韓国では、今でも焼肉屋さんに行くと蚕のさなぎを出してくれる店があります。肉を焼く合間にさなぎも火であぶって食べるのです。お酒の「つまみ」に最適ですよ。また、ソウルの露天では、当たり前のように「さなぎ煮」が売られています。

「食の国」と呼ばれる中国の山東省や遼寧省では、野生の蚕のさなぎが市販されており、野菜と共に炒めたり、煮て食べます。また、フライにしてタマネギとソースであしらえて食べたり、生きたさなぎを半分に切ってスプーンですくって食べる場合もあります。生のさなぎはヨーグルトのような味がします。

アジア以外にもアメリカ西部ではさなぎではなく、パンドラ蛾という絹糸虫の幼虫を食べます。この幼虫はピアギと呼ばれ、元々はカスケート地方やシャラネバダ山脈に住んでいたインディアンによって食用として利用されていましたが、あとから移住してきた現代のアメリカ人にもしっかりと受け継がれています。アメリカでは幼虫をそのままゆでて塩をふって食べたり、シチューの具として利用するのです。

日本でも蚕のさなぎを食べる風習はかなりの広範囲でみられました。

大正時代の調査によると、当時全国23の県で蚕のさなぎが食べられていましたし、その内の七つの県では「薬」として利用されていました。子供の夜泣き、ぜんそく、虚弱な人には栄養剤として優れた民間薬だったそうです。