すだちの皮(「健康」07年3月号)

すだちの皮をとったら血糖値の上昇が抑えられたばかりか、寿命も延びたことが動物実験で判明した

徳島大学大学院教授・薬学博士 高石喜久先生 徳島大学大学院助教授・医学博士 土屋浩一郎先生

高石先生のPROFILE
1947年生まれ。69年、徳島大学薬学部製薬化学科卒業。72年、京都大学大学院薬学研究科修士課程薬学専攻修了。徳島大学薬学部助教授、京都大学客助教授などをへて現職。薬用植物に含まれる成分を研究している。

土屋先生のPROFILE
1965年生まれ。88年、徳島大学薬学部薬学科卒業。90年、徳島大学大学院薬学研究科博士前期課程修了。徳島大学病院薬剤部勤務、医学部助手などをへて、2003年から現職。今回のすだちの研究では動物実験を担当。

徳島県が全国の生産量の95%を占めるすだち

徳島県の特産品といえば、すだちです。すだちはゆずの近縁種である柑橘類。徳島県が全国の生産量の95%を占めています。
すだちの生産量は年間で約8000トン。半分は加工食品に利用され、残りの半分は生食用として全国に出荷されています。
すだちの利用法は汁をしぼり、料理にかけるのが一般的。汁をしぼったあと、残った皮は捨てられてきました。そこである大阪の会社が余ったしぼりかすをなん とか有効に利用できないかと考えたのです。しぼりかすの果皮に健康に役立つ成分が含まれていれば、地元の産業に大いに貢献することができます。そこで、徳 島大学で研究を始めることになりました。4年ほど前のことです。
最初、私たちの研究グループは、すだちの皮がダイエットに役立たないかと思い、研究を開始しました。まず、動物実験を行うことになりました。
実験には多食のため、肥満を伴い、高インスリン、高脂血症、高レプチン血症という症状をあらわすネズミを利用しました。人間でいえば、肥満が原因で血糖や脂質の代謝異常を示す生活習慣病の状態。いわば、「メタボリックシンドローム・ネズミ」です。
この6週目に入ったネズミを2つのグループに分けて実験を行いました。
①は水だけを与えるグループ
②は水にすだちの果皮を乾燥させたもの(すだちパウダー)を加えて飲ませるグループです。

そして、体重、血圧、心拍数、血糖値、血中インスリン濃度、血中脂質を1年間にわたり、調べたのです。
結果、すだちパウダーを用いたグループに、体重が減る効果はみられませんでした。血圧や心拍数にも影響はなく、血中脂質にも変化はみられませんでした。
ダイエット効果がない点では期待に反しましたが、すだちの皮は人間の体に毒性がなく、循環器系にも負担を与えない安全なものだと証明されたのです。
驚いたのは、血糖値の上昇が抑えられたことでした。このネズミは軽度の糖尿病を起こす性質があり、今回も実験開始後60日目から徐々に血糖値が上昇してきました。しかし、すだちパウダーを与えたグループは、血糖値の上昇が明らかに抑えられたのです。
すだちパウダーを与えたネズミの血液中のインスリン濃度を測ったところ、①のグループと数値に違いはありませんでした。膵臓から出るインスリンの量を促して血糖値を下げたのではなく、ほかのメカニズムによって、血糖値を下げたということです。
インスリンの利用効率を高めたのか、肝臓での糖の代謝に影響を与えた可能性を考えていますが、この点は今後実験を進めて明らかにしていきます。
1年後の生存率にも明らかな差が出ました。水だけを与えたグループは8匹のうち、4匹が死んだのに対し、すだちパウダーを与えたグループは7匹のうち1匹 しか死ななかったのです。しかも、すだちパウダーを与えたグループで残ったネズミは1年後も与えなかったネズミにくらべて、元気なのです。
す だちの皮のどの成分が効果をもたらしたのか、はっきりわかっていませんが、すだちはほかの柑橘類とよく似て、多くの種類のフラボノイドが含まれています。 すだち特有のフラボノイドもあり、これらの相乗効果によるものと思われます。ちなみに、これらの有効成分は果皮に多く、汁にはほとんど含まれません。
徳島県ではすだちの汁をよく料理に利用します。皮もすりおろして焼き魚に添えたり、冷ややっこの上にのせるなどしてとってきました。これは香りを楽しむ程度で、ほんの少量しかとっていません。
じつは徳島県は糖尿病の死亡率が全国ナンバー1という不名誉な記録を持っています。これはすだちの皮という「健康にとって宝物」の部分を積極的にとらず、捨ててきたためと思われます。
動物実験では1日すだち4個半分にあたる果皮を与えましたが、人間は1日1~2個で十分。私自身、汁をしぼったあとのすだちの皮をそのまま食べています。そのままだと食べづらい人は、ほかの素材とまぜてジュースにすればとりやすくなるのでおすすめです。

すだちの皮Q&A
回答/高石喜久先生

Q.フライパンですだちの皮を煎って、粉末にして飲んでも効果はありますか?
A. すだちに含まれるフラボノイドは熱に強いのですが、ほかの有効成分は加熱で壊れてしまうものが多くあります。
できれば、すだちの皮は熱を加えるより、生のままジュースにして飲むほうが有効成分をそのままとれておすすめです。

Q.すだちの皮は農薬の心配はないのですか?
A. 近年、農薬に関する規制が非常に厳しくなってきています。生産農家もその規定をきちんと守っています。基本的には、心配しなくても大丈夫です。それでも気なる人は、少量の塩をすり込んでよく水洗いすることをおすすめします。