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シルクフィブロイン飲用による血清脂質、糖代謝能への効果

 

上野紘郁*、長島孝行**、吉川育矢***

 

*あさひ医王クリニック

**東京農業大学農学部

***ドクターセラム(株)研究開発リーダー

 

はじめに

 

 蚕が作り出すシルクは繊維でありながら、高純度のタンパク質で、タンパク質以外の成分は5%以下しか含まれていない。シルクフィブロインはシルクのタンパク質のうち約70%含まれる、フィブロインタンパクのみを特殊な製法により抽出したものである13

 シルクフィブロインはナノレベルの多孔性の基本構造を持ち、この複雑な隙間には吸脂性という機能がある。さらに難消化性であることから、体内の余分なコレステロール、脂肪を吸着し、乳化した状態で体外に排出する働きがある1

 本研究ではヒトにおいて、血糖値等を下降させる働きが得られるかどうかについて、シルクフィブロインの飲用試験を実施したものである。

 

 

 

 

 

 

1.材料と方法

 

1)材料

 シルクフィブロインは長島らの方法(製法特許 第4074923号)に従って作製したものを使用した1

 

2)経口飲用

 被験者は、1年以上通院歴のある糖尿病患者を選んだ。

 試験はあさひ医王クリニック、保健科学研究所(旧東京臨床検査センター)、各地クリニックで行なった。6カ月にわたって男女10名(男6名、女4名)(年齢63.2±9.4)を対象に行なった。シルクフィブロインタンパク200mg13回(計600 mg)食前に飲用してもらった。尚、試験中は糖尿病薬を中止した。

 また、不特定男女1,645名に関しては、同様のシルクフィブロインを1カ月間飲用してもらい、1,451名(男295名、女1,156名)(年齢56.5±13.8)からデータを取ることができた。

 

3)測定したもの

 1ヵ月間隔で被験者から採血し、長期(6カ月)投与では、血中の血糖値(blood glucose)、ヘモグロビンA1cHbA1c)値、トリグリセライド(TG)を測定し、短期(1カ月)投与では、加えて総コレステロール(TC)、HDLコレステロール、LDLコレステロール、ASTGOT)、ALTGPT)、γ-GTPを測定した。

 

4)検定

 有意差の検定は、10名6カ月のデータはScheffe post hoc analysisで、1,451名1カ月のデータはpaired t-testで行なった。P<0.05を有意と判定した。

 

2.結果

 

1)長期(6カ月)投与の効果

 10名の長期投与のデータを図1に示した。1カ月目で有意に血糖値が下降し、この傾向は持続した。飲用前の値は274.2±79.1 mg/dLから6ヵ月後は112.1±17.7 mg/dLに下降していた(P<0.05)。

 糖尿病の指標として使われているHbA1c1カ月目から有意に下降を始めこれが6カ月目まで続いた(7.7±1.05.5±0.2%, P<0.05)。トリグリセライド値は飲用3カ月目までは有意差が出なかったが下降傾向はあり、4カ月目から下降が有意となった(178.7±55.595.4±20.3 mg/dL, P<0.05)。

 

2)        短期(1カ月)投与の効果

 1,451名において、シルクフィブロインタンパクを1カ月間摂取した際の血中脂質、糖代謝、肝機能に与える影響を確認した。それぞれの測定項目について、被験者全員で解析した上で、摂取開始日の測定値が基準値外の被験者を2つのレベルに分けて層別解析を行った。

摂取前後での血清脂質の経時的変化を図2に示した。被験者全員での解析では、LDLコレステロールと中性脂肪が有意な低下を、HDLコレステロールが有意な上昇を示した。総コレステロールは有意な変動は見られなかった。層別解析の結果、総コレステロールおよびLDLコレステロール、中性脂肪では有意な低下が、HDLコレステロールでは有意な上昇が確認された。

 糖代謝能の経時的変化を図3に示した。全被験者での解析において、血糖値、HbA1cともに、有意な低下が認められた。また層別解析においても、両項目ともに有意な低下が認められた。

 肝機能検査の経時的変化を図4に示した。ASTAOT、γ-GTPのいずれも、全被験者での解析において有意な変化は認められなかった。層別解析を行ったところ、AST30IU/l以上の被験者において有意な低下が認められたほかは、いずれも変化がなかった。

 

3.考察

 

血糖値の高い人がシルクフィブロインを飲用すると、有意に血糖値が下降することが明らかになった。空腹時血糖は70110 mg/dL以下と言われているが、6カ月飲用の10名の変化は平均値で274 mg/dLから112 mg/dLになったことから、ほぼ値が正常化したと言えるデータである。

HbA1cの正常値は4.35.8%であるが、6カ月飲用で平均値が7.75.5%になっているので、ここでも正常域に入ったと言うことができる。トリグリセライドの正常域は32220mg/dLなので6カ月飲用で10名の平均値が178から95になったことは、正常値の上限から平均値レベルに下降したと言える。

糖尿病の指標となっている血糖値とHbA1cレベルをシルクフィブロインは6カ月の飲用で正常化できたが、さらに同様の傾向を確認するために、飲用1カ月ではあるがで追加実験を試みた。健常者に対する作用も確認するため、初期値による選別は行わず、すべての被験者をアトランダムに選んで行った。その結果、1,451名という大規模な例数で効果を確認することができ、わずかな変化でも統計的な差を検出することができた。

全被験者における経時的変化では、LDLコレステロール、中性脂肪、血糖値、HbA1cで有意な変化が、HDLコレステロールでも有意な変化が確認された。しかしながら各項目の変化量を見ると、LDLコレステロールが132.6±34.7131.3±35.3/dLHDLコレステロールが62.4±16.1/dL63.0±16.2mg/dL、中性脂肪が129.9±99.3126.0±97.8/dL、血糖値が100.6±33.099.1±29.3 mg/dLHbA1c5.4±1.05.3±1.0%であり、健常者への影響はないと考えられる。

 摂取開始前の測定値が基準値を超える被験者を対象とした層別解析では、上記項目に加え、総コレステロールでも有意な低下がみられた。また、いずれの項目においても、初期値が基準値より外れるに従って変化の幅は大きくなる傾向がみられた。これにより、シルクフィブロインが健常者に対しては影響を与えず、血糖値や血中脂質の高い者に対してのみ作用することが示唆された。この結果は長期投与のグループのデータと重なるところがある。

 肝機能に対しては、全被験者での解析では変化が見られず、シルクフィブロインの安全性が確認された。ASTのレベル1グループのみで有意な変動が認められたが、低下作用であることと軽微な変動であることから、安全性に与える影響はないと考えられる。

以上のことから結論を述べると、シルクフィブロインの飲用は長期でも短期でも、血糖高値の人に血糖降下作用を発揮した。また大規模な例数による効果確認試験では、LDLコレステロールを低下させHDLコレステロールを上昇させるなど、血清脂質への効果も確認された。これはシルクフィブロインの持つ多孔性構造や難消化性によって糖質の吸収をゆっくりさせたり、脂肪を吸着し体外に排泄させる効果などのためではないかと考えている。

 

謝辞

 

データの解析と考察については、新潟大学大学院医歯学総合研究科、国際感染医学講座の渡辺まゆみ、安保徹、株式会社RDサポートに指導を受けた。ここに感謝の意を表す。

 


参考文献

1)          Hiromu Akai, Takayuki Nagashima and Shinji Aoyagi: Ultrastructure of posterior silk gland cells and liquid silk in indian tasar silkworm, antheraea mylitta drury (Lepidoptera: saturnidae), Int J Insect Morphol Embryol 22, 497506 (1993)

2)          Sonja Hess, Jacco van Beek and lewis K. Pannell: Acid hydrolysis of silk fibroins and determination of the enrichment of isotopically labeled amino acids using precolumn derivatization and highperformance liquid chromatographyelectrospray ionizationmass spectrometry, Analytic Biochem 311, 1926 (2002)

3)          Chang-Kee Hyun, II-Youg Kim and Susan C. Frost: Soluble fibroin enhances insulin sensitivity and glucose metabolism in 3T3-L1 adipocytes, J Nutr 134, 32573263 (2004)

4)          Takayuki, Nagashima and Hiromu Akai Ultrastructure of liquid fibroin in the silk glands of silkworm,Bombyx mori , Int J Wild Silkmoth & Silk, 13:35-38 (1993)

 

 


図1.シルクフィブロイン長期(6カ月)飲用の効果

 

男女10名の値の変化を表している。

* P< 0.05

 

(基準値はあさひ医王クリニックによる)

 

 

 

 

 

図2.シルクフィブロイン短期(1カ月)飲用の血清脂質への効果

 

男女1,451名の値の変化を表している。各データの高値のものをlevel 1からlevel 2として、このデータも検定した。

* P< 0.05 **P <0.01

 

(基準値は日本人間ドック学会による)


図3.シルクフィブロイン短期(1カ月)飲用の糖代謝能への効果

 

男女1,451名の値の変化を表している。各データの高値のものをlevel 1からlevel 2として、このデータも検定した。

* P< 0.05 **P <0.01

 

(基準値は日本人間ドック学会による)

 


図4.シルクフィブロイン短期(1カ月)飲用の肝機能への影響

 

男女1,451名の値の変化を表している。各データの高値のものをlevel 1からlevel 2として、このデータも検定した。

* P< 0.05 **P <0.01

 

(基準値は日本人間ドック学会による)


うえの・ひろいく/Hiroiku Ueno

1964金沢大学大学院医学研究科終了、医学博士、同年金沢赤十字病院産婦人科部長、1966金沢大学医学部産婦人科講師、同年福井県、富山県、石川県などの総合病院医長、1997「日本代替医療学会」(現「日本補完代替医療学会」)理事長、1998年~あさひ医王クリニック開業、院長、2001年~「日本臨床代替医学会」設立、理事長、2002年~中国安徽医科大学客員教授、新潟薬科大学客員教授

 

ながしま・たかゆき/Takayuki Nagashima

1983東京農業大学大学院農学研究科修了、農学博士、1990東京農業大学農学部助手、1996東京農業大学農学部講師、2001東京農業大学農学部准教授、2009東京農業大学農学部教授、日本野蚕学会評議委員、第19回日本科学技術フォーラム委員、千年持続学会設立準備委員など

 

よしかわ・いくや/Ikuya Yoshikawa

1975岐阜高等専門学校卒業、2005年~ドクターセラム株式会社設立、代表取締役兼研究開発リーダー

 

 

 

この論文に関するお問い合わせ

KSS協議会 シルク研究部会

 

150-0043

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ドクターセラム(株)